ICT × 数学 × 教育

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教育のICT化について考えるブログです。特に数学の授業におけるICT教育について発信します!

主体的・対話的で深い学びを実現できる授業とは?高校数学での「教えて考えさせる授業」の実践録④

前回はペア活動を円滑に行うための環境づくりについてまとめました。

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ict-math-edu.hatenablog.jp

今回は理解確認の過程で私が行なっている「説明し合う」ペア活動において、「説明することの大切さ」をどのように生徒に伝えているか、生徒が説明しやすいように行なっている工夫や発問の仕方についてご紹介したいと思います。

 

 

説明し合うペア活動を円滑に行うための環境づくりができても、なかなか自分の言葉で説明することは難しいのが現実です。

目的意識をはっきりしておくためにも、「なぜ説明することが大切なのか」ということを生徒にあらかじめ伝えておき、生徒との共通理解事項としておく必要があります。

説明することの大切さの一つとして、「完璧に説明することがゴールではなく、自分の言葉で説明しようとすることで、自分がどれだけ理解できているのかを知る」ことが大切なことだと授業で何度も伝えています。

 

そもそも、なぜ自分がどれだけ理解できているのかを知る必要があるのでしょうか。

今自分は何ができていて何ができていないのか知り、そのためにはどのようなことが必要か知らなければ先に進めませんよね。

このような自己分析をする力が数学だけでなく、他の教科の勉強でも、受験勉強でも、もっと大きい視野でいうと人生設計など、将来の生徒たちにとって必ず必要な能力の一つだと思っています。

その力を、なんと数学の授業で培ってしまおうという魂胆です。

自己分析の大切さを知っている大人からしたら、とても大切なことだとわかるのですが、まだ経験したことがない生徒たちにとっては、なかなか言葉で言っても伝わりません。

「自分がどれだけ理解できているのかを知る」ことの大切さを生徒に伝える例として、生徒の反応がよかったものをひとつご紹介します。

 

私「なぜ数学なのに『説明する』必要があるのだろう。なぜそれが大事なのだろう。ここで一つ例をみせますね。」

 

(ここで縄跳びを取り出します。)

 

私「誰か前で縄跳びを披露してくれる子はいるかな?」

 

(一人ぐらいやってくれるというおちゃらけな子がいます。もしいなかったら、ここはさっと切り上げて、縄跳びで上手に飛べる様子を思い浮かべます)

 

私「ありがとう。上手でした。では私がやってみますね。実は縄跳びがとても下手なんです」

 

(本当はとべますが、飛べない練習をしました。)

 

私「私はうまいこと縄跳びが飛べませんね。どうやったら飛べるようになるか、どなたかアドバイスをくれますか?」

 

両足が一緒に動いていない

縄を見ていない(目をつぶって飛んでます)

上手に回せていない

タイミングがあっていない

(このように、いくつか出て来ました)

 

私「たくさんあげてもらいました。ありがとうございます。きっと、これらのできていないことを一つ一つクリアすればきっと縄跳びもうまく飛べるようになるはずですよね。実はこのような分析を自分ですることを『自己分析』といいます。自分がいまどんなことができていないか、またどんなことができているかを分析することです。この分析したことを、ひとつひとつできるようになっていけば、多くの場合問題も解決できるはずです。これはどんなことにも役立ちます。」

 

私「この自己分析を数学でもやってみましょう。体を使った時は視覚的に見えるからわかりやすかった。

でも、数学になるとどこが理解できてどこでつまづいているかわかりにくいですよね?それをわかりやすくする一つの方法が、「説明する」ことなんです。出題された問題の解き方を最後まで説明できれば、その問題は理解できているということです。もし説明をしている途中でつまづいてしまったら、それは理解できていないということがわかります。」

 

このように生徒に伝えています。もっと良い例があるかもしれませんが、現段階ではこれがベストでした。また、実際には数学での事項分析の方法として、「問題を解いて間違え直しをする」ことがありますが、この「間違え直し」はとても力を入れていることなので、一つの授業では「説明をする」と「間違え直し」を二つ扱っていません。

 

 

さて、生徒に「説明する」ことの大切さを伝えた後で、実際にどれぐらい説明することが難しいことなのか体感してもらう必要があります。初めてやる時にはなかなか言葉が出てこなかったりうまく説明ができず、そのことで説明をする活動をしたくないと生徒が思わないよう、説明し合う活動のハードルを下げるために学級全体での共通ルールを作っています。

 

・うまく説明できなくても大丈夫(説明することが目的ではなく、説明することで自分がどこまで理解できているのかを知ることが目的!!)

・与えられた時間はなんとか説明しようと言葉を発してみる

・はじめは、あれがこれがという言い方でいい

・口で説明するだけでなく、自分のノートやプリントを見せたり、紙に書きながらやってもいい

・聞く側は相槌をうって発言はしない

・聞き手はまだこの解き方を知らない人です。どこでつまづくか想像しながら説明しよう(これはかなり高度なので、説明する内容に自信がある人向け)

・聞き手は中学生のつもりで質問を一つしてみよう(これは学級全体で説明することに慣れてきたら)

 

 

もちろんなかなかできない子もいます。自分が簡単にできることが相手も簡単にできるとは限らないので、自分と同じ実力を相手に求めないように伝えています。 また、話すのが苦手な人、コミュニケーションを取るのが苦手だと感じている人は、今日は相手の目を1回見てみよう、今日はいつもよりちょっとおおげさにうなずいてみよう、と自分の中の目標をクリアできればオッケーとフォローいます。

 

中には、説明し合う活動中に一言も発せない子もいます。そのような子を見た時には、担任に普段からあまり話さない子なのか聞いたり、必要に応じて授業外に話し合ってどのようなことでつまづいているか聞いています。

 

実際にいた子では、話すことが決まっていても、そもそも頭の中のことを言葉でなかなか説明することが難しいという子がいました。ただ、文字でのやり取りは苦痛ではないとのことだったので、紙に書いて説明し合う方法を伝えました。

 

また、自分自身では説明ができたと思っていても、全くできていない生徒もいます。そのために、前で一人で発表してもらうという方法もとっています。( 学級全体での発表に関しては、また別の機会に記事にします)

 

 

「説明することの大切さ」を生徒につたえ、「説明する活動の学級共通のルール」についても話しました。さあでは実際に生徒に説明してもらいましょう。ここで一番大事なことは、教師からの発問です。行なっている授業で絶対に全員が理解してほしいことを教師が説明します(教えて考える授業の第一段階、教師からの説明)。その後にその内容が理解できているか生徒同士で説明をしあって確認します(教えて考えさせる授業の第二段階、理解確認)。ただ、「ではこの例題4の解き方を説明し合ってみよう」といって生徒に説明をさせるのは、かなり難易度が高いことです。ですので、こちらの発問の仕方が重要になってきます。

 

問題文のどこに注目して、どういう方針で、なぜこの式が出てくるのか、ということが数学を解く上でも大切になると思います。一つ一つの問題によって、大切なことが変わってくると思います。式の工夫などが鍵となる場合をのぞき、説明し合う活動の時には、計算の式変形の仕方などは扱わなくていいことにしています。そして、発問する時には「この例題4では問題文のどこに注目して(黒板には赤線がひいてある)、なぜこの式がでてきたのかを意識して、解き方を説明してみよう」などと具体的に伝えています。また、わからなくなっても、全てが黒板に書いてあり、それを見ることでヒントになるような板書デザインに気をつけています。(理解確認の時間時の生徒同士の説明し合う活動をスタートさせる発問にはいつも思考錯誤しており、今でもまだ思考錯誤の段階です。またよい方法を見つけましたら、お伝えできればと思います。)

 

 

実際に数学の授業でこのような説明をする時間を作ってから気づいたことが2つほどあります。一つは、数学用語の必要性です。たぶん多くの先生方がさっと流してしまう「単項式」「多項式」「定数項」「変数」などの数学用語が、説明するためにはとても重要になってきます。ここでしっかりと定着ができていると関数を扱うときに「変数」や「定数項」の着目する目ができていたり、概念の定着、関数の感覚的な理解が早いように感じました。

 

二つ目は数学が嫌いな生徒でも活躍できる場があり、成長が実感できることです。計算能力がないばかりに問題が解けない生徒でも、説明することで内容の理解ができる生徒がいました。今まで数学が苦手だと感じていたが、実は数学の計算につまづいていたので全てができないと思い込んでいた生徒が少なくありませんでした。これは私にとっても目から鱗で、問題を解くこと以外の成功体験が授業の中で用意されていることがこのような形で、数学が苦手な生徒の自信に繋がっているとは気づきませんでした。

 

 

長くなりましたが、今回は「説明し合う」活動において、生徒に説明することの大切さをどのように伝えているか、学級共通のルール、発問の仕方について書きました。

少しでも私の経験が授業づくりで悩んでいる先生方のお役に立てると嬉しいです。