主体的・対話的で深い学びを実現できる授業とは?高校数学での「教えて考えさせる授業」の実践録②
主体的・対話的で深い学びを実現できる授業とは?高校数学での「教えて考えさせる授業」を実践録②
前回,主体的・対話的で深い学びを実現できる授業の一つとして「教えて考えさせる授業」を紹介しました。
前回→
今回は,実際に高校の数学の授業でどのように実践して取り入れたか,教師の説明・理解確認・理解深化・自己評価の4つの段階ごとに具体的にご紹介したいと思います。
授業デザイン
50分の授業を以下のようにデザインすることが多いです。
① 教師の説明 15分程
② 理解確認 15分程
③ 理解深化 15分程
④ 自己評価 5分程
授業を構想する時は「授業目標」だけでなく,その授業を通して「目指す生徒の姿」を考えます。
また,生徒がどのようなところでつまづく可能性があるのか,その「つまづきポイントとその手立て」を考え,困難度査定を行うようにしています。
これら3つを考えてから,その困難度査定をクリアにするためにはどのような教師の説明が必要なのか,目指す生徒の姿を実現するためにはどのような理解深化問題が望ましいかを考えていました。
教師の説明
この時間に,予習の確認,前時の復習,本時の目標,この授業を通してどのようなことができるかを踏まえ,本時の説明などを行います。
教えて考えさせる授業では予習の推奨をしており,私の授業でも予習を大切にしています。
ただ,予習といっても全ての問題を解いて理解してくるというものではなく,本時の授業に関わる教科書の該当ページをあらかじめ生徒に伝え,その箇所を読んできてもらうという課題です。
その時にただ読むのではなく,読んでわからなかったことや理解できなかったことを付箋やラインマーカーでチェックしてくるように伝えています。
これを授業前にしておくことで,生徒自身がどのようなところを意識して授業に取り組めばよいかがわかります。
また,予習をしていなかったからといって授業についていけないというものでもなく,生徒自身の授業の時間がより良いものになるという位置付けです。
予習の確認の時間ではやってきたかどうかを聞くのではなく,該当範囲の教科書を開いてもらい,机間指導をしながら生徒がどこに付箋やラインマーカをひいているか,生徒自身が感じたわからないところや疑問に思ったところをチェックしています。
これを踏まえて,生徒がわからないと感じたところに時間をかけたり,授業の山場としてもっていきます。
本時の説明では,確実に教えたい内容,確実に理解させたい内容を説明しています。
その時の授業内容によりますが,公式の説明や公式を使ってどのような問題を解けるようになってほしいのかを明確に決めておく必要があります。
全ての生徒が理解してほしいことを,教科書の例題を用いて説明しています。
生徒は教科書を読む予習をしているので,教科書の例題を扱うことを基本としています。
状況によっては,教科書の例題にプラスαとしてオリジナル問題を扱うこともあります。
また,説明の時にはなるべく黒板1枚に,本時に確実に教えたい内容がまとまっているように板書デザインをしています。
電子黒板を用いる場合でも同様です。
理解確認
理解確認の時間では,「教師の説明」で教えた内容が理解できたかどうかを確認するための課題を用意しています。
ほぼ全員が達成できることを目標とした内容です。
課題の内容は,ペアで説明し合う,「教師の説明」で解説された例題の類題問題を解く,類題問題を生徒自身が説明する,類題問題を教師が説明するなどのことを行います。
時間の都合で全て行うことはできませんが,その時の生徒に身につけさせたい力などを踏まえてどのような課題にするか決めています。
これらの活動の中でも,「ペアで説明し合う」ことをとても大切にしています。
自分自身が理解できているかどうかを確認する方法として,説明することがすぐに確認できる方法だと思っているからです。
説明するためには数学用語を使える必要はありますが,計算ができなくてもどのようなことに着目してどのような公式をどこで活用するか,この問題を解く時のポイントは何かなどを説明することで,自分が理解しているかどうかを確認することができます。
ただペア活動をするための環境づくりや,ペア活動をするにあたっての発問の仕方などには工夫が必要です。
「ではこの例題を説明してください」という発問はかなり高難度で,これではなかなか説明し合うことはできません。
より具体的な発問を行い,生徒が説明し合いやすいようにするよう心がけています。
「類題問題を生徒自身が説明する」ことはICTとの相性がいいと感じています。
電子黒板を使用すると,生徒が黒板に書く必要がないからです。
生徒が解いたものを写真で撮って電子黒板に映し,生徒に前に出てきて説明してもらっています。
写真で撮ってうつすことで,生徒が黒板に書くよりもかなり時間短縮になり多くの生徒に発表のチャンスがあります。
その後追加解説を教師が行ったり,他の生徒から意見を聞いたりしています。
理解深化
理解深化の時間では,理解確認までの内容を習得していればチャレンジできる応用問題を用意しています。
学習した内容を使って知識を深めたり発展させたりして,教えたことを定着させるための課題に取り組むことで,最終的に生徒の約8割が説明できるようにしています。
理解確認で扱った問題を発展させた問題を解く,日常生活などと関連させたオリジナル問題を解く,ある問題の解き方が既に記載されており間違いを探す間違い探し問題を解くなど,個人及びグループでの活動などを行っています。
理解深化の問題の準備が,教えて考えさせる授業の醍醐味かもしれません。
特別難しい問題を用意しなければいけないわけではなく,前述した授業デザインをしっかり行うことで,教科書や問題集などを参考にしながら扱う問題を考えています。
まれに理解深化課題で扱ってみたい問題を思いつくことはありますが,授業デザインとかみ合わずにお蔵入りしていることが多いです。
(やってみたいという思いで無理やり実施し,その関係で授業デザインとかみ合わずに失敗したことが何回かあります・・。)
目指す生徒の姿や困難度査定をしっかり行うことで,理解深化課題のレベルを決めています。
自己評価
自己評価の時間では,何が分かって(できて)何が分からなかった(できなかった)のか記述させることで,その日の学んだことを振り返っています。
また,最後に本時のまとめや次回どのようなことを学ぶか,本日取り組める問題集の範囲や次回の教科書の予習範囲もこの時間に伝えています。
自己評価の時間を大切にしており,一時間ごと,単元ごと,学期ごとで振り返りの内容を分けています。
一時間ごとや単元ごとでは,わかったこと,わからなかったこと,さらに考えてみたいこと,感想の4項目を記述できるような項目を用意しています。
学期ごとでは,ルーブリックを活用しています。
数学の授業を通して身につけたい力を予めルーブリックとして生徒に説明しておき,その中で生徒自身がどのような力を一番身につけることができたか,また次の学期ではどのようなことに力を入れたいか,振り返りと次の学期の目標設定の時間を設けています。
まとめ
今回は,実際に高校の数学の授業でどのように実践して取り入れたか,授業デザインの仕方と「教師の説明・理解確認・理解深化・自己評価」の4つの段階ごとに具体的に全体の流れをご紹介しました。
次回以降はこの4つの段階ごとで行なっている工夫として,ペア活動を行うための環境づくりや発問の仕方,理解深化の問題例,自己評価をよりよいものにするための工夫など,様々な工夫を順次ご紹介できればと思います。
参考文献
・市川伸一,“「教えて考えさせる授業」を創る 基礎基本の定着・深化・活用を促す「習得型」の授業設計”,図書文化,2008
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・“教えて考えさせる授業 解説ページ”,(http://www.p.u-tokyo.ac.jp/lab/ichikawa/ok-kaisetu.html)
・市川伸一,“授業からの学校改革「教えて考えさせる授業」による主体的・対話的で深い習得
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