主体的・対話的で深い学びを実現できる授業とは?高校数学での「教えて考えさせる授業」の実践録④
前回はペア活動を円滑に行うための環境づくりについてまとめました。
→
今回は理解確認の過程で私が行なっている「説明し合う」ペア活動において、「説明することの大切さ」をどのように生徒に伝えているか、生徒が説明しやすいように行なっている工夫や発問の仕方についてご紹介したいと思います。
説明し合うペア活動を円滑に行うための環境づくりができても、なかなか自分の言葉で説明することは難しいのが現実です。
目的意識をはっきりしておくためにも、「なぜ説明することが大切なのか」ということを生徒にあらかじめ伝えておき、生徒との共通理解事項としておく必要があります。
説明することの大切さの一つとして、「完璧に説明することがゴールではなく、自分の言葉で説明しようとすることで、自分がどれだけ理解できているのかを知る」ことが大切なことだと授業で何度も伝えています。
そもそも、なぜ自分がどれだけ理解できているのかを知る必要があるのでしょうか。
今自分は何ができていて何ができていないのか知り、そのためにはどのようなことが必要か知らなければ先に進めませんよね。
このような自己分析をする力が数学だけでなく、他の教科の勉強でも、受験勉強でも、もっと大きい視野でいうと人生設計など、将来の生徒たちにとって必ず必要な能力の一つだと思っています。
その力を、なんと数学の授業で培ってしまおうという魂胆です。
自己分析の大切さを知っている大人からしたら、とても大切なことだとわかるのですが、まだ経験したことがない生徒たちにとっては、なかなか言葉で言っても伝わりません。
「自分がどれだけ理解できているのかを知る」ことの大切さを生徒に伝える例として、生徒の反応がよかったものをひとつご紹介します。
私「なぜ数学なのに『説明する』必要があるのだろう。なぜそれが大事なのだろう。ここで一つ例をみせますね。」
(ここで縄跳びを取り出します。)
私「誰か前で縄跳びを披露してくれる子はいるかな?」
(一人ぐらいやってくれるというおちゃらけな子がいます。もしいなかったら、ここはさっと切り上げて、縄跳びで上手に飛べる様子を思い浮かべます)
私「ありがとう。上手でした。では私がやってみますね。実は縄跳びがとても下手なんです」
(本当はとべますが、飛べない練習をしました。)
私「私はうまいこと縄跳びが飛べませんね。どうやったら飛べるようになるか、どなたかアドバイスをくれますか?」
両足が一緒に動いていない
縄を見ていない(目をつぶって飛んでます)
上手に回せていない
タイミングがあっていない
(このように、いくつか出て来ました)
私「たくさんあげてもらいました。ありがとうございます。きっと、これらのできていないことを一つ一つクリアすればきっと縄跳びもうまく飛べるようになるはずですよね。実はこのような分析を自分ですることを『自己分析』といいます。自分がいまどんなことができていないか、またどんなことができているかを分析することです。この分析したことを、ひとつひとつできるようになっていけば、多くの場合問題も解決できるはずです。これはどんなことにも役立ちます。」
私「この自己分析を数学でもやってみましょう。体を使った時は視覚的に見えるからわかりやすかった。
でも、数学になるとどこが理解できてどこでつまづいているかわかりにくいですよね?それをわかりやすくする一つの方法が、「説明する」ことなんです。出題された問題の解き方を最後まで説明できれば、その問題は理解できているということです。もし説明をしている途中でつまづいてしまったら、それは理解できていないということがわかります。」
このように生徒に伝えています。もっと良い例があるかもしれませんが、現段階ではこれがベストでした。また、実際には数学での事項分析の方法として、「問題を解いて間違え直しをする」ことがありますが、この「間違え直し」はとても力を入れていることなので、一つの授業では「説明をする」と「間違え直し」を二つ扱っていません。
さて、生徒に「説明する」ことの大切さを伝えた後で、実際にどれぐらい説明することが難しいことなのか体感してもらう必要があります。初めてやる時にはなかなか言葉が出てこなかったりうまく説明ができず、そのことで説明をする活動をしたくないと生徒が思わないよう、説明し合う活動のハードルを下げるために学級全体での共通ルールを作っています。
・うまく説明できなくても大丈夫(説明することが目的ではなく、説明することで自分がどこまで理解できているのかを知ることが目的!!)
・与えられた時間はなんとか説明しようと言葉を発してみる
・はじめは、あれがこれがという言い方でいい
・口で説明するだけでなく、自分のノートやプリントを見せたり、紙に書きながらやってもいい
・聞く側は相槌をうって発言はしない
・聞き手はまだこの解き方を知らない人です。どこでつまづくか想像しながら説明しよう(これはかなり高度なので、説明する内容に自信がある人向け)
・聞き手は中学生のつもりで質問を一つしてみよう(これは学級全体で説明することに慣れてきたら)
もちろんなかなかできない子もいます。自分が簡単にできることが相手も簡単にできるとは限らないので、自分と同じ実力を相手に求めないように伝えています。 また、話すのが苦手な人、コミュニケーションを取るのが苦手だと感じている人は、今日は相手の目を1回見てみよう、今日はいつもよりちょっとおおげさにうなずいてみよう、と自分の中の目標をクリアできればオッケーとフォローいます。
中には、説明し合う活動中に一言も発せない子もいます。そのような子を見た時には、担任に普段からあまり話さない子なのか聞いたり、必要に応じて授業外に話し合ってどのようなことでつまづいているか聞いています。
実際にいた子では、話すことが決まっていても、そもそも頭の中のことを言葉でなかなか説明することが難しいという子がいました。ただ、文字でのやり取りは苦痛ではないとのことだったので、紙に書いて説明し合う方法を伝えました。
また、自分自身では説明ができたと思っていても、全くできていない生徒もいます。そのために、前で一人で発表してもらうという方法もとっています。( 学級全体での発表に関しては、また別の機会に記事にします)
「説明することの大切さ」を生徒につたえ、「説明する活動の学級共通のルール」についても話しました。さあでは実際に生徒に説明してもらいましょう。ここで一番大事なことは、教師からの発問です。行なっている授業で絶対に全員が理解してほしいことを教師が説明します(教えて考える授業の第一段階、教師からの説明)。その後にその内容が理解できているか生徒同士で説明をしあって確認します(教えて考えさせる授業の第二段階、理解確認)。ただ、「ではこの例題4の解き方を説明し合ってみよう」といって生徒に説明をさせるのは、かなり難易度が高いことです。ですので、こちらの発問の仕方が重要になってきます。
問題文のどこに注目して、どういう方針で、なぜこの式が出てくるのか、ということが数学を解く上でも大切になると思います。一つ一つの問題によって、大切なことが変わってくると思います。式の工夫などが鍵となる場合をのぞき、説明し合う活動の時には、計算の式変形の仕方などは扱わなくていいことにしています。そして、発問する時には「この例題4では問題文のどこに注目して(黒板には赤線がひいてある)、なぜこの式がでてきたのかを意識して、解き方を説明してみよう」などと具体的に伝えています。また、わからなくなっても、全てが黒板に書いてあり、それを見ることでヒントになるような板書デザインに気をつけています。(理解確認の時間時の生徒同士の説明し合う活動をスタートさせる発問にはいつも思考錯誤しており、今でもまだ思考錯誤の段階です。またよい方法を見つけましたら、お伝えできればと思います。)
実際に数学の授業でこのような説明をする時間を作ってから気づいたことが2つほどあります。一つは、数学用語の必要性です。たぶん多くの先生方がさっと流してしまう「単項式」「多項式」「定数項」「変数」などの数学用語が、説明するためにはとても重要になってきます。ここでしっかりと定着ができていると関数を扱うときに「変数」や「定数項」の着目する目ができていたり、概念の定着、関数の感覚的な理解が早いように感じました。
二つ目は数学が嫌いな生徒でも活躍できる場があり、成長が実感できることです。計算能力がないばかりに問題が解けない生徒でも、説明することで内容の理解ができる生徒がいました。今まで数学が苦手だと感じていたが、実は数学の計算につまづいていたので全てができないと思い込んでいた生徒が少なくありませんでした。これは私にとっても目から鱗で、問題を解くこと以外の成功体験が授業の中で用意されていることがこのような形で、数学が苦手な生徒の自信に繋がっているとは気づきませんでした。
長くなりましたが、今回は「説明し合う」活動において、生徒に説明することの大切さをどのように伝えているか、学級共通のルール、発問の仕方について書きました。
少しでも私の経験が授業づくりで悩んでいる先生方のお役に立てると嬉しいです。
主体的・対話的で深い学びを実現できる授業とは?高校数学での「教えて考えさせる授業」の実践録③
前回,実際に高校の数学の授業でどのように実践して取り入れたか,教師の説明・理解確認・理解深化・自己評価の4つの段階ごとに具体的にご紹介しました。
→
今回は,理解確認においてペア活動を円滑に行うためにどのような環境づくりを行なっているか,実際の取り組みをご紹介したいと思います。
ペア活動の時間では,「説明し合う」ことを主に行っています。
相手に「説明する」ことで自分自身がどこがわかっておらずどこまで理解できているかを把握することが目的です。
理解したことを自分の言葉で説明できることは、その内容が身についたか理解できているかを確認できる簡単な方法だと思っています。
しかし、「さあ説明し合いましょう」と言っても初めから生徒同士で説明はでません。
相手とある程度の人間関係ができていないと活動そのものに支障をきたします。
そこで説明し合うペア活動を円滑に行うために、学級全体で話しやすい環境づくりを行っています。
特に4月の1回目の授業では力を入れて、これらの大切さを伝えた上で次のようなアイスブレイクを行っています。
教師「ペアとなる相手に、名前と、趣味を30秒ほどで伝えましょう。見本ではこんな感じですね。(一呼吸)『峰太郎です。ミネッチと呼ばれてます。趣味はこう見えて料理が得意なことです。唐揚げやローストビーフなどをよく作ります。毎回作りすぎるので太りました。』」どうです?できそうですか?まず15秒ほど差し上げますので、相手にどんな内容を伝えるか考えてみてください。では15秒どうぞ。
(15秒はおおざっぱに計測。生徒の顔を見てだいたい終わりの時間を決める)
では、時間になりました。ペアとなった廊下側の人、手をあげてください。次に窓側の人、手をあげてください。(ここでペアが全員わかっているか、廊下側や窓側という表現をして自分自身のことだとわかっているかを確認。)いいですね。では、廊下側の人から名前、趣味を30秒で伝えます。どうぞ。
(ここでも30秒はおおざっぱに計測。生徒の様子を見て切り上げる。)
では交代です。次は窓側の人が名前と趣味を30秒で伝えましょう。どうぞ。
(同じく30秒おおざっぱに計測し、生徒の様子を見て切り上げる。)
相手に伝えられましたか?相手にうまく伝えられない、コミュニケーションが苦手という人もいると思います。苦手と感じている人はどれぐらいいますか?苦手と感じていてもこれから練習をしていけばいいので、何も問題ありません。では一つ、聞く側の練習をしてみましょう。今度は、聞く側の人は相手が話している最中にうなづいて相槌をうってください。テーマは入りたい部活とその動機を伝えてみましょう。例えばこんな感じです。」
ここで一人二役で、入りたい部活と相槌の打ち方のデモストレーションをします。
その後、先ほどと同様にお互いに説明し合うペア活動をします。
教師「どうでしたか?1回目より聞いてもらっていると感じませんでしたか?さらにもうひとつ練習してみましょう。今度も聞く側の人は相槌をうつのですが、その時に『うんうん』『そうなんですか』『面白そうですね』『素敵ですね』など笑顔で相手の考えに肯定な相槌を返してみてください。相手の考えに肯定な相槌ということが大事です。テーマは春休みにどんなことをして過ごしたか相手に伝えてみましょう。家でのんびり過ごしたことや、ゲームをしたでももちろんかまいません。何も伝えることが思い浮かばないという人は、こんな春休みを過ごしたかったという内容を実際にあったかのように相手にバレないように伝えてみましょう。例えばこんな感じです。」
ここで本当に過ごした休暇なのかわからない絶妙な例を一人二役で演じてデモストレーションをすると盛り上がります。
その後、先ほどと同様にお互いに説明し合うペア活動をします。
この時に、お茶目な子、目立ちたい子、あまり目立ちたくない子など生徒たちを観察します。
これを実践してきて、ほとんどの学級で盛り上がっていました。
全体で「相手の春休みの過ごし方が、これはすごいと思った人はいますか?」と聞くことでペアの仲の良さやクラスの反応も伺えます。
それを発表してもらい、教師が笑いながら反応することで何を発表しても大丈夫というやわらかい空気が生まれているように思います。
最後に次のように締めています。
教師「今ペア活動を3回してもらいました。はじめはふつうに、次は相槌をうって、最後は相手の考えに肯定する相槌をしました。どうでしょうか?話し手の立場だったときに、一番話していて気持ちよかったのは何回目ですか?たぶん一番最後で相手から肯定の相槌があったときではないでしょうか?聞いてもらえていると感じますよね。今後、この授業では自分の言葉で説明する時間を作ります。その時はペア活動で行います。ぜひ、まずは聞く側の技術を身につけて、お互い気持ちよく説明できるようにしてみましょう。説明に不安を感じている人も多いと思いますが、その都度どのようなことを意識したらよいか伝えていくので安心してくださいね。」
ここでのペア活動のテーマでは、趣味、入りたい部活、春休みにどのようなことをして過ごしたかなどをあげましたが、他にも数学の苦手なところを紹介しあったり、学校の行事と絡めた内容をしたりしています。
学期のはじめや席替えの後などに行うと効果的です。
説明し合うことの大切さを伝えつつできるアイスブレイクとして重宝しています。
「説明する」ことにも様々な技術がありますが、それよりも聞く技術の方が習得しやすいです。
コミュニケーションが苦手と感じている生徒が多いので、少しでも自分でもできるということを実感して、説明し合う活動に抵抗をなくそうと取り入れています。
今回はペア活動を円滑に行うための環境づくりとして、聞き手の練習をするアイスブレイクをお伝えしました。
次回は、理解確認のペア活動をより活性化するために大切な「発問の仕方」と「説明する技術」についてお伝えできればと思います。
主体的・対話的で深い学びを実現できる授業とは?高校数学での「教えて考えさせる授業」の実践録②
主体的・対話的で深い学びを実現できる授業とは?高校数学での「教えて考えさせる授業」を実践録②
前回,主体的・対話的で深い学びを実現できる授業の一つとして「教えて考えさせる授業」を紹介しました。
前回→
今回は,実際に高校の数学の授業でどのように実践して取り入れたか,教師の説明・理解確認・理解深化・自己評価の4つの段階ごとに具体的にご紹介したいと思います。
授業デザイン
50分の授業を以下のようにデザインすることが多いです。
① 教師の説明 15分程
② 理解確認 15分程
③ 理解深化 15分程
④ 自己評価 5分程
授業を構想する時は「授業目標」だけでなく,その授業を通して「目指す生徒の姿」を考えます。
また,生徒がどのようなところでつまづく可能性があるのか,その「つまづきポイントとその手立て」を考え,困難度査定を行うようにしています。
これら3つを考えてから,その困難度査定をクリアにするためにはどのような教師の説明が必要なのか,目指す生徒の姿を実現するためにはどのような理解深化問題が望ましいかを考えていました。
教師の説明
この時間に,予習の確認,前時の復習,本時の目標,この授業を通してどのようなことができるかを踏まえ,本時の説明などを行います。
教えて考えさせる授業では予習の推奨をしており,私の授業でも予習を大切にしています。
ただ,予習といっても全ての問題を解いて理解してくるというものではなく,本時の授業に関わる教科書の該当ページをあらかじめ生徒に伝え,その箇所を読んできてもらうという課題です。
その時にただ読むのではなく,読んでわからなかったことや理解できなかったことを付箋やラインマーカーでチェックしてくるように伝えています。
これを授業前にしておくことで,生徒自身がどのようなところを意識して授業に取り組めばよいかがわかります。
また,予習をしていなかったからといって授業についていけないというものでもなく,生徒自身の授業の時間がより良いものになるという位置付けです。
予習の確認の時間ではやってきたかどうかを聞くのではなく,該当範囲の教科書を開いてもらい,机間指導をしながら生徒がどこに付箋やラインマーカをひいているか,生徒自身が感じたわからないところや疑問に思ったところをチェックしています。
これを踏まえて,生徒がわからないと感じたところに時間をかけたり,授業の山場としてもっていきます。
本時の説明では,確実に教えたい内容,確実に理解させたい内容を説明しています。
その時の授業内容によりますが,公式の説明や公式を使ってどのような問題を解けるようになってほしいのかを明確に決めておく必要があります。
全ての生徒が理解してほしいことを,教科書の例題を用いて説明しています。
生徒は教科書を読む予習をしているので,教科書の例題を扱うことを基本としています。
状況によっては,教科書の例題にプラスαとしてオリジナル問題を扱うこともあります。
また,説明の時にはなるべく黒板1枚に,本時に確実に教えたい内容がまとまっているように板書デザインをしています。
電子黒板を用いる場合でも同様です。
理解確認
理解確認の時間では,「教師の説明」で教えた内容が理解できたかどうかを確認するための課題を用意しています。
ほぼ全員が達成できることを目標とした内容です。
課題の内容は,ペアで説明し合う,「教師の説明」で解説された例題の類題問題を解く,類題問題を生徒自身が説明する,類題問題を教師が説明するなどのことを行います。
時間の都合で全て行うことはできませんが,その時の生徒に身につけさせたい力などを踏まえてどのような課題にするか決めています。
これらの活動の中でも,「ペアで説明し合う」ことをとても大切にしています。
自分自身が理解できているかどうかを確認する方法として,説明することがすぐに確認できる方法だと思っているからです。
説明するためには数学用語を使える必要はありますが,計算ができなくてもどのようなことに着目してどのような公式をどこで活用するか,この問題を解く時のポイントは何かなどを説明することで,自分が理解しているかどうかを確認することができます。
ただペア活動をするための環境づくりや,ペア活動をするにあたっての発問の仕方などには工夫が必要です。
「ではこの例題を説明してください」という発問はかなり高難度で,これではなかなか説明し合うことはできません。
より具体的な発問を行い,生徒が説明し合いやすいようにするよう心がけています。
「類題問題を生徒自身が説明する」ことはICTとの相性がいいと感じています。
電子黒板を使用すると,生徒が黒板に書く必要がないからです。
生徒が解いたものを写真で撮って電子黒板に映し,生徒に前に出てきて説明してもらっています。
写真で撮ってうつすことで,生徒が黒板に書くよりもかなり時間短縮になり多くの生徒に発表のチャンスがあります。
その後追加解説を教師が行ったり,他の生徒から意見を聞いたりしています。
理解深化
理解深化の時間では,理解確認までの内容を習得していればチャレンジできる応用問題を用意しています。
学習した内容を使って知識を深めたり発展させたりして,教えたことを定着させるための課題に取り組むことで,最終的に生徒の約8割が説明できるようにしています。
理解確認で扱った問題を発展させた問題を解く,日常生活などと関連させたオリジナル問題を解く,ある問題の解き方が既に記載されており間違いを探す間違い探し問題を解くなど,個人及びグループでの活動などを行っています。
理解深化の問題の準備が,教えて考えさせる授業の醍醐味かもしれません。
特別難しい問題を用意しなければいけないわけではなく,前述した授業デザインをしっかり行うことで,教科書や問題集などを参考にしながら扱う問題を考えています。
まれに理解深化課題で扱ってみたい問題を思いつくことはありますが,授業デザインとかみ合わずにお蔵入りしていることが多いです。
(やってみたいという思いで無理やり実施し,その関係で授業デザインとかみ合わずに失敗したことが何回かあります・・。)
目指す生徒の姿や困難度査定をしっかり行うことで,理解深化課題のレベルを決めています。
自己評価
自己評価の時間では,何が分かって(できて)何が分からなかった(できなかった)のか記述させることで,その日の学んだことを振り返っています。
また,最後に本時のまとめや次回どのようなことを学ぶか,本日取り組める問題集の範囲や次回の教科書の予習範囲もこの時間に伝えています。
自己評価の時間を大切にしており,一時間ごと,単元ごと,学期ごとで振り返りの内容を分けています。
一時間ごとや単元ごとでは,わかったこと,わからなかったこと,さらに考えてみたいこと,感想の4項目を記述できるような項目を用意しています。
学期ごとでは,ルーブリックを活用しています。
数学の授業を通して身につけたい力を予めルーブリックとして生徒に説明しておき,その中で生徒自身がどのような力を一番身につけることができたか,また次の学期ではどのようなことに力を入れたいか,振り返りと次の学期の目標設定の時間を設けています。
まとめ
今回は,実際に高校の数学の授業でどのように実践して取り入れたか,授業デザインの仕方と「教師の説明・理解確認・理解深化・自己評価」の4つの段階ごとに具体的に全体の流れをご紹介しました。
次回以降はこの4つの段階ごとで行なっている工夫として,ペア活動を行うための環境づくりや発問の仕方,理解深化の問題例,自己評価をよりよいものにするための工夫など,様々な工夫を順次ご紹介できればと思います。
参考文献
・市川伸一,“「教えて考えさせる授業」を創る 基礎基本の定着・深化・活用を促す「習得型」の授業設計”,図書文化,2008
「教えて考えさせる授業」を創る 基礎基本の定着・深化・活用を促す「習得型」授業設計/市川伸一【1000円以上送料無料】 価格:1,512円 |
・“教えて考えさせる授業 解説ページ”,(http://www.p.u-tokyo.ac.jp/lab/ichikawa/ok-kaisetu.html)
・市川伸一,“授業からの学校改革「教えて考えさせる授業」による主体的・対話的で深い習得
授業からの学校改革 「教えて考えさせる授業」による主体的・対話的で深い習得 [ 市川 伸一 ] 価格:2,376円 |
主体的・対話的で深い学びを実現できる授業とは?高校数学での「教えて考えさせる授業」実践録①
はじめに
私は常々,生徒がより主体的に学びに向かうためにはどうしたらいいか,高校数学で対話的な授業とは難しいのではないかと感じていました。
といいますのも,今まで私自身が受けてきた授業や授業見学をさせていただいた数学の授業では,多くは「教師が問題を解説し,その後類似問題を生徒が解く」といった解説と演習型の授業を行なっていました。
数学部会や研究授業などで紹介される「探求型の授業」では,生徒に知識を与えずヒントだけで本日の重要ポイント(公式や証明など)を自力で見つけさせるといったものが多く,発見できた生徒は面白いと感じると思いましたが,数学が苦手な生徒にとってはただただ苦痛の時間に思いました。
すばらしいと思ったものでもすぐに真似ができるようなものではなく,その単元の一発もののことが多く,普段の自分の授業に活かせるものは少なく感じました。
日々の授業に少しでも活かせる実践録はないかと探しても,高校ではあまりシェアする文化が少ないのか数が圧倒的に少なく感じました。
ここで私は,
- 数学の授業で対話的な授業は本当に難しいのか
- 深い学びを実現するための手法としての「探求型の授業」で数学が苦手な生徒でもスキルアップできる方法とはないか
- 生徒が主体的に学びに向かうためにはどうしたらいいか
ということを意識しながら授業計画を立てるようになりました。
様々な失敗を繰り返してきましたが,「教えて考えさせる授業」との出会いが(少し大げさかもしれませんが)私の授業に革命をもたらしました。
これらの3つの悩みを全てクリアでき,さらにICTを活用した授業との相性もよかったのです。
教えて考えさせる授業とは
「教えて考えさせる授業」は「わかる授業」「子どもが充実感を感じられる授業」を目指して市川伸一先生(東京大学大学院教育学研究科・教授)が提唱されたものです。
生徒に教えるだけではなく,また生徒に教えずに考えさせるわけでもなく、生徒に知識を与え,生徒が「教えられて,理解し,さらにその先を考えていく」というステップをとった授業の手法です。
「学習の過程とは,与えられた情報を理解して取り入れることと,それをもとに自ら推論したり発見したりしていくことの両方からなること」という認知心理学での基本をこの授業での基盤としています。
言われてみれば当たり前なことと思いますが,実際の授業でこのような学習の過程を生徒に経験させることができていたかと言われると正直自身がありません。
教えて考えさせる授業では4つの段階を大切にしており,授業の流れは,はじめに教師が知識を教え,教え合いの活動などを通して生徒は理解確認を行いこの日習う知識を習得します。その習得した知識を用いて理解を深めるような課題を行い,授業の最後に自己評価を行うという手順が基本的な構成です。
教えて考えさせる授業の流れ
① 教師の説明
教材・教具・説明の工夫を行いながら教師から説明を多ないます。教科書を活用したり,モデルによる実演を行う,代表生徒との対話を行うことで対話的な説明を行うなど,生徒全員が今回の授業でおさえておきたい知識を教えます。教師の腕のみせどころです。
② 理解確認
授業で身に付けたい内容を生徒自身が理解の確認を行う時間です。生徒自身が説明し合ったり,教え合いの活動を取り入れたり,類題を解くなどの方法があります。
③ 理解深化
授業で習ったことを使って,より理解を深める問題にチャレンジします。例えば誤りそうな問題を用意してその間違いを発見させる課題や,習った法則などを拡張することによって解ける応用・発展的課題,生徒による問題づくりなど様々です。授業計画を立てる上で一番楽しいところです。
④ 自己評価
生徒自身が授業を通して「わかったこと」「わからないこと」を整理して,理解状態の表現を行ういます。
教えて考えさせる授業はこの4段階を意識して行います。
実際に教材研究を行い授業計画を立てる時は,今回の授業で確実に生徒に身につけさせたいことは何か,どのように教えると定着がはかれるか,より深い理解を得られるようにどのような理解深化課題を用意するとよいかといったことに明確に意識するようになり,授業計画を立てやすくなりました。
まとめ
主体的・対話的で深い学びを実現できる授業の手法の一つとして「教えて考えさせる授業」を紹介しました。
高校の数学で実際に実践してみたところ,様々な失敗もありましたが生徒からの授業に対する反応は格段によくなり,特に数学が苦手な生徒が一生懸命に授業に取り組む様子が見られるようになりました。
ただはじめから完璧にうまくいったわけではありません。
それぞれ4つの段階で様々な工夫を行いました。
今後,高校数学で実践した内容,それぞれ4つの段階での工夫内容などをお伝えできればと思います。
参考文献
・市川伸一,“「教えて考えさせる授業」を創る 基礎基本の定着・深化・活用を促す「習得型」の授業設計”,図書文化,2008
「教えて考えさせる授業」を創る 基礎基本の定着・深化・活用を促す「習得型」授業設計/市川伸一【1000円以上送料無料】 価格:1,512円 |
・“教えて考えさせる授業 解説ページ”,(http://www.p.u-tokyo.ac.jp/lab/ichikawa/ok-kaisetu.html)
・市川伸一,“授業からの学校改革「教えて考えさせる授業」による主体的・対話的で深い習得
授業からの学校改革 「教えて考えさせる授業」による主体的・対話的で深い習得 [ 市川 伸一 ] 価格:2,376円 |
iPadを活用した授業実践!電子黒板とiPad一台でできること。カメラ機能を活用しよう!
こんにちは,峰です。
初めて電子黒板を使用した時は,これで何ができるのかなかなかイメージできませんでした。
試行錯誤しながら使ってみるうちに,特別なアプリを使用しなくても教師用のiPadが一台あるだけでできることが広がりました。
今回は,電子黒板と教師用のiPad一台でどのようなこととして,カメラ機能の活用方法をご紹介します。
実際に授業で役立っている使用方法をお伝えできればと思います。
これから電子黒板やiPadの導入を検討されている方,学校にICT環境は整っているものの何からやってみたらいいかわからない方を対象に記事にしました。
少しでもお役に立てたら嬉しいです。
電子黒板とは
電子黒板とは,パソコンなどの機器と接続することでプロジェクターの機能を備えつつ,電子ペンで自由に書き込みができる機械です。
プロジェクター機能だけを使うことも可能ですし,電子ペンの機能だけを使うこともできます。
電子ペンは,様々な色や太さで使用でき,消しゴム機能や書き込みを全て消去する機能があります。
基本的にはHDMIやDVIなどで接続できれば,パソコンやタブレットをはじめ,書画カメラやDVDプレーヤーなども接続可能です。
電子黒板にも種類やグレードがあり,2台連携することで違う映像を写せるもの,複数の電子ペンを用いて生徒が同時に記入できるもの,生徒のタブレットに黒板に写しているものを一斉配信できるものなど様々です。
今回紹介する「電子黒板と教師用のiPad一台でできること」では,iPadを用いて電子黒板によって写し,電子ペンで書き込むという基本的な操作方法のみとします。
電子黒板とiPadはAppleTVで接続しよう
PCなどはHDMIやDVIなどで接続する必要があります。
iPadも同様ですが,AppleTVを使用することで,PCとAppleTVをHDMIケーブルで接続し,AppleTVとiPadを無線で接続しワイヤレスの状態で使用することができます。
つまり,「タブレット → 無線 → AppleTV → HDMIケーブル → 電子黒板」という流れで投影できます。
この手法は電子黒板だけでなく,プロジェクターでも使用できます。
また,iPadではAppleTVが一番便利だと思いますが,Androidの端末でもAppleTVのような使い方ができるものとして,ChromeCastやAnyCastといった製品があります。
電子黒板とiPad一台でできること。一番便利なのはカメラ機能!?
生徒のノートを写そう!
AppleTVを用いてワイヤレスのままiPadのを使えることで,電子黒板に写した状態でiPadを持ったまま机間指導ができます。
説明しながら机間指導をしつつ生徒に質問を投げかけることもできます。
一番便利だと感じたのは,生徒のノートやプリントでの解き方を写真で撮ってすぐに写せることです。
黒板に問題をあらかじめ書いておき,生徒が黒板に書いて答え合わせをするといったやり方を教科によっては多く活用されている手法だと思います。
早く解き終わった生徒に当てることで,解くスピードが遅い生徒を待ったり,つまづいていた生徒のヒントになったり,その間に教師が机間指導したりと様々なメリットもあるかと思いますが,生徒によっては黒板に書くことに慣れておらず,字が汚い,時間がかかる,黒板のスペースが足りなくなって文字が小さくなって読みにくいことがあります。
これが電子黒板とiPad一台で解決です。
生徒のノートやプリントなどを写真で撮りその場で電子黒板に写すので,生徒が黒板に書く時間を考える必要はありません。
また読みにくい場合は拡大縮小が簡単にできます。
電子ペンを使うことで,写しているノートの写真の上から記入することもできます。
授業で生徒に発表させることもありますが,生徒は電子ペンを使うのが楽しいようで,喜んで発表してくれました。
教科書を写してみよう!
「写真を撮って写す」ということができるだけで,教科書を電子黒板に写してそのまま解説を書き込めたり,数学ですとグラフや図の注目してほしいところをすぐに見せることができます。
英語や国語の先生方は,文章をそのまま拡大して写し,そこに注釈を書くことでかなりの時間短縮になったと言っておりました。
また,前回の授業のまとめを写真で撮っておけば,その内容を授業のはじめに写すことで復習もすぐに行うことができます。
行事時の帰りのHRなどでは,その日撮った写真をすぐに見せて振り返ることも可能です。
プリント教材を写してみよう!
授業でプリント教材を作っている場合は,作ったプリントを写真で撮ってそのまま生徒と一緒に穴埋めをすることもできます。
どこに何を書けばいいのかわからないということがなくなり,またプリントに予め書いていたことを黒板に書く必要がないので,予想しているよりも早いテンポで授業が進みました。
考査テストの答え合わせや解説などもスムーズに行うことができました。
書画カメラとしても使える!?
iPadを固定するスタンドなどを活用すれば,簡単に書画カメラとして活用できます。
カメラを起動させて,手元の様子を写すだけでその様子が電子黒板に映ります。
教科にもよりますが,実験を行う場合など教師側の手元だけでなく,生徒が行なった実験の様子をリアルタイムで見せることもできます。
予め実験の様子を動画で撮っておいて,その様子を授業で見せたり,授業後に生徒にデータを共有している先生もおりました。
まとめ
今回は,電子黒板とiPad一台でできることとして,カメラ機能に着目し,生徒のノートを撮って写す,教科書を写す,書画カメラとして使用するなどの方法を紹介しました。
これができるだけで授業の時間に余裕ができ,生徒が話し合う活動や問題をいつもより一つ多く解くなど授業の幅が広がりました。
この経験が多くの方のお役に立てたら嬉しいです。
はじめての一人一台iPad授業。意外と戸惑う生徒たち。説明する内容と注意点
こんにちは,峰です。
今回は,私が数学の授業ではじめて一人一台のiPadの授業を使った時の失敗談や,そこから学んだことなどをお伝えできればと思います。
私が想像している以上に,「生徒はiPadを使用することができない」というのが正直な感想でした。
iPadを活用した授業内容
本校では電子黒板が設置された特別室と、1クラス分の貸し出し用iPadがあります。
私は2学期に高校1年生を対象に,2次関数の平行移動を「GeoGebra」で体験するという授業を行いました。(詳細についてはまた後日記事にできればと思います)
その時に生徒に必要になるiPadの技術としては,「GeoGebraの基本的な使い方」「関数の入力の仕方」「グラフの操作の仕方」と思い,電子黒板を使用しながら丁寧に伝えられるように事前準備を行っていました。
iPadを配り始める前に,以下のことを伝えました。
- 本日はグラフアプリを使用して,グラフを視覚的に観察すること
- はじめは順を追って説明するので,私と同じように動作させてほしいこと
- グラフアプリ以外を使用しないこと
この3つのルールを伝えた後すぐにグラフアプリを使用する予定でしたが,実は生徒はこの授業で初めてiPadを触ったということを授業中に知りました。
はじめての授業で教えておきたいこと
最近の高校生はスマホも持っているし,iPadの操作も何も問題がないのではないかと感じた方もいるかと思います。
まず生徒が戸惑ったのは,iPadでの入力の仕方です。
AndroidとiOSでは入力の仕方の違うため,Androidを普段使用していた生徒はまず入力でつまづいてしまいました。
授業内容にもよるかと思いますが,以下の内容が生徒がつまづいた部分でした
どれも使用したことがあればわかる基本的なことですが,一度も使用したことがない生徒にとっては知らなくて当たり前のことばかりでした。
iPadを活用した授業から学んだこと
結局,1時間で計画していた授業を終えることができず,生徒には申し訳ないことをしたと反省しております。
この授業を通して,iPadの活用などのICT教育は専門教科だけでは対応できないと痛感しました。
授業計画や内容を改善するだけでなく,校内での連携が必須だと思いました。
学校全体でICT教育を行う以上,
- 生徒がいつ初めてiPadを触るのか
- いつどのようなアプリを活用していくのか
- プレゼン発表の機会はいつ作り,どの授業で使い方をマスターするのか
などのこれらのことが校内で連携がとれて初めて,ICT教育が有効的にいきるように思います。
まとめ
今回は,「はじめてのiPadの授業で説明する内容と注意点」というテーマで書きました。
授業でiPadを活用する時には,生徒がiPadの基本的操作方法をどれくらい知っているのかを教師側が把握しておく必要があります。
そのためにも,最低でも以下の3つを気をつければスムーズに授業を行えるのではないかと思いました。
- 校内全体で生徒にiPadを使用する機会について連携を取る
- 基本的な操作方法を行う時間を作る
- 生徒が使用する際のルールを徹底する
私もまだまだ思考錯誤の段階ですが,この経験が少しでも多くの方に役立つと嬉しいです。
ご意見など,いつでもお待ちしております。
プロフィール
初めまして,峰です。
高校の数学教師をしています。
工学出身なこともあり,ICT教育に興味があり実践中です。
しかし数学分野でのICTの実践例は少なく,相性が悪いと言われてきました。
数学では教師が黒板で解説し生徒が問題を解くというスタイルが主流かと思いますが,主体的・対話的で深い学びを実現するために,電子黒板やiPadなどを活用したICT教育は相性がいいのではないか考えています。
日々試行錯誤して実践してきた内容が少しでもお役に立てたらと思いブログを始めることとしました。
まだまだ実践途中ですが,その内容を発信し様々なご意見をいただければ嬉しいです。
また実践内容だけでなく,ICT教育や数学の情報など幅広く発信していきたいです。
よろしくお願いします。